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上田市中心部土地利用図(地域研究年報43号,2021年)

本図は私が43年間勤務した筑波大学を辞めてから初めて描いた土地利用図です。2020年は世の中がコロナ禍で大変なときでしたので本来ならば5月末に予定した地誌の野外実習が10月中旬にずれて行われました。そのため地図の方も本当なら7月中旬に色塗り原図が完成していて8月からじっくり作業を行う予定でしたが、色塗り原図が完成したのが11月中旬でした。そこから表現等を決めて製図作業に入ろうと思ったのですが、原図を見てみるとあちらこちらに調査の曖昧な部分が見られたので、院生諸君に原図を戻して修正をしていただくのに半月かかりました。結果製図作業に取りかかったのは12月初旬で締め切りまでは残り2ヶ月。途中には正月休みも入るので大変なことになったと思いました。どう見ても普通に作業をしたのでは絶対間に合わないのは分かっていたので土日も返上で作業を行いました。結果2月中旬にやっと完成させることが出来ました。たぶん今までの経験で一番きつかったのではないでしょうか?

そんな愚痴はさておいて、この色塗り原図をどう料理すれば格好良く見やすい地図に仕上げられるかを考えるために原図を壁に貼り付け、離れたところから眺めることにしました。

すると原図の左半分と右半分で色あいが違うのに気がつきました。左側は黄色や黄緑そして無着色といった淡い感じの色合いなのに対して右側は赤やピンクや橙色といった暖色系の濃い色で、その廻りが寒色系の青色からなっていたのです。そして地割りも左半分は大きいのに対し右半分は細かくなっていました。そこでこれを参考に左側に多い駐車場や公共施設や公園などは淡いトーンの表現を使い、右半分のうち青色は中間のトーン、赤色系暖色は黒っぽい濃い表現にしようと思いました(カラーの原図はこちら)。

次に考えたことは個々の土地利用の表現です。今回の土地利用の区分で特徴的なのは初めて飲食業が独立した項目になっているのです。そこで飲食業が一番目立つようにと太い線を使った黒っぽい模様を使うことにしました。本来ならば一番目立つ表現は黒のベタ塗りなのですが、今回の地図では飲食業が狭い地域ではありますが密集していましたので黒ベタを使うとどぎつい感じになる危険性があったので使いませんでした。

三番目に考えたことは土地利用図をより地図らしく見せるために土地利用以外の表現、特に河川などの水域の表現と鉄道の表現に気を遣いました。この地図では市街地の南側を流れる千曲川を入れて製図して欲しいとの要望があったので川や堀といった水域をどのような表現で描けば地図の中で収まりが良いかを考えました。水域の表現には幾つかありますが今回は時間の制約もあるので等間隔に水平な直線を描く方法にしました。しかし堤防内の部分に水平線の模様をつけたのでは野暮ったく見えるので原図に描かれている河道のみに模様をつけました。なおかつ河岸に近い部分の線を短い線で描くことで水域部分を強調してみました。この表現は戦前の陸地測量部の地形図に描かれた物を参考にしました。しかし私の頭に最初に浮かんだ表現は伊那市市街地の土地利用図の天竜川等の河川に使った波状線表現でした。だがこの表現は神経も時間も使うので今回は泣く泣く諦めました。また鉄道の方は私が鉄道好きと言うこともありますが、どんな鉄道表現を使うかで地図の見え方が変わってくるような気がします。鉄道表現にも幾つかありますが一番存在感があるのは今回北陸新幹線に使った旗竿記号です。しかし今回の地図では北陸新幹線としなの鉄道(旧信越本線)が並行して走り、かつ緩いカーブを描いています。このような緩いカーブの平行な表現を双頭曲線烏口(道路などの平行曲線を描く製図器具)で描くのは私の技術では無理なので旗竿記号は新幹線だけにして他は太めの実線に短い線を交差させる枕木記号にしました。こんな具合に鉄道を表現したのですが、この地図に描かれた北陸新幹線の高架橋構造は上手く表現できませんでした。そして、もし高架橋の下に何らかの土地利用が有った場合にはどう表現すれば良いかと言うことも私の今後の課題です。

このような順序で表現を考えて製図を行い、文字や記号を貼り込んで土地利用図を完成させたんですが、もう一度完成図全体を眺めてみると住宅の模様のトーンが気になりました。もう少し濃いトーンにしていたら地図全体の締まりが変わっただろうなと思いました。それこそ描いたハッチの線を髪の毛一本分太くするだけで違ったと思います。時間の制約があったためにじっくり表現のトーンの吟味が出来なかったことが悔やまれます。このように使う線の太さを髪の毛一本分のオーダーで調整してやることが綺麗な地図に繋がることを改めて痛感しました。


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